平成26年度学位記授与式(卒業式)学長式辞

Date:2015.03.31
駒澤大学学長 廣瀬 良弘
駒澤大学学長 廣瀬 良弘
学位記授与式会場
学位記授与式会場

卒業生の皆さん、おめでとうございます。心よりお祝い申し上げます。
3557名の学士号取得の卒業生の皆さん、皆さんのこの4年間は、広い意味での勉学に全てを打ち込める、至福の時でありました。この間に多くの事を学び、達成されたことも多かったのではないかと思います。大きく成長された姿で卒業という良き日を迎えられることは、私たち教職員といたしましても喜びとするところです。ご臨席の保護者の皆様におかれましても、決して平坦な道ではなかったでしょう。厳しい社会情勢の中での今日を迎えられるまでのご労苦はいかばかりであられたかを拝察申し上げ、心よりお慶び申し上げます。
また、法科大学院修了の10人の皆さん、駒澤大学のスピリッツをもった良き法曹を目指して下さい。各専攻科の大学院修士課程修了の61名の皆さんも大部の修士論文を作成しての修士号取得、さらに、博士後期課程の8名の皆さんも、単位取得おめでとうございます。そして、博士号の学位を取得された6名の方々、長年の研究の成果を見事に結集して大論文を完成されて本日の良き日を迎えられましたこと、これまでの精進に対して敬意を表します。

さて、とくに学士卒業の皆さんが、駒澤大学に入学を決めていた、あるいは決めようとしていた矢先の2011年3月11日、東日本大震災と原発事故が起こりました。その日以来、皆さんの大学生活の期間は日本国中がこの大災害からの立ち直りや復旧復興事業に尽力し、それを願った日々でもありました。
しかし、その傷跡は未だ癒えておらず、日本を挙げての復旧復興事業はまだまだ続きます。皆さんも卒業後、自らの生活基盤をしっかりと固めたうえで、この事業の支援に参加してほしいと思います。

皆さんの在学時代には、東京スカイツリーの完成、東京オリンピックの誘致、先ごろの北陸新幹線の開業という慶事もありましたが、皆さんを迎える社会はグローバル化に伴い、伝統社会は揺らぎ、変化し、経済環境?雇用情勢が厳しさを増し、国際紛争は東西対立から民族間紛争に変わり、それと表裏の関係で宗教的対立が頻発し、多くの国で社会不安が拡大しています。我が国でも少子高齢化に伴う社会活力の低下や社会的格差?地域格差が叫ばれ、先述のように東日本大震災の復興事業も思うように進んでいません。
これから卒業されていく門出の皆さんに、なぜこのような厳しい状況を述べるかというと、それは、厳しい社会の中でも皆さんは立派に社会に貢献していけると確信しているからです。それは、長い本学の伝統を引き継ぎ、建学の理念に基づいた教育を受け、生活力いわゆる駒澤力を身につけているからです。本学で学んだ皆さんには、専門の学問とともに社会に向かって誇れるものが自然と身についているのです。

さて我が国には、慶応?明治から平成まで、元号を冠し、その特色と歴史を示している大学が幾つかありますが、本学はこれら他大の追随を許さない歴史とそれに付随する興味深いエピソードを数多く持っています。卒業の皆さんに改めて示しておきましょう。
本学は、我が国はもとより世界的に見ても長い歴史と伝統を持つ数少ない大学の一つです。本学の前身の前身である吉祥寺は、今からおよそ540年前の長禄年間に、江戸東京の祖とされ、武人としても歌人としても知られて南関東に力を持った太田道灌によって、江戸城とともに建てられました。そして1592年(文禄元年)、徳川家康が江戸に入城して、3年目、堀の外に出た吉祥寺の中に学寮(後の旃檀林)ができました。本学の前身です。約420年前のことです。水道橋のたもとにありました(『江戸屏風図』佐倉歴民博蔵)。
江戸時代前半の1657(明暦3)年、江戸城天守閣まで焼き尽くした振袖火事によって、吉祥寺や学寮は駒込?本郷近くに移転し、門前の住民は五日市街道沿いの地を開拓し、もと居た地名を取って「吉祥寺」と称したといいます。今の吉祥寺の街です。
明治期を迎えて、1882(明治15)年、麻布北日ヶ窪、現在のテレビ朝日?六本木ヒルズあたりの地に近代的な大学として開校いたします。本学は3年前に開校130周年を迎えました。その開校から30年後の1913(大正2)年に駒沢の地に移転し、一昨年移転100周年を迎えました。近くには日本人が初めて造成したゴルフ場があるのみでした。
本学で最も古い建物は、1928(昭和3)年に建てられたレンガ造りの禅文化歴史博物館です。東京都選定歴史的建造物となっております。菅原栄蔵という人物の設計です。ビアホール銀座ライオンも菅原氏の設計として知られています。また、深沢キャンパスの洋館は禅?茶の湯と関係の深い数寄屋造り風の設計で知られる吉田五十八の設計で、TVドラマや映画で首相官邸や新湾岸警察署として登場しています。

このように、皆さんの母校は歴史やエピソードに満ちた魅惑的な大学です。毎年秋に行われますホームカミングデーに参加され、歴史やエピソードに触れてみて下さい。新たな発見があり、皆さんに元気を与えてくれることでしょう。
このような伝統と歴史の中で、駒澤大学は仏教の教えと禅の精神を建学の理念、つまり教育?研究の基本としてきました。この建学の理念は、永きにわたり「行学一如」という言葉で表されてきました。
「行学一如」の「行」とは自己陶冶、すなわち自分をより優れた人間として育て上げる自己形成のこと、「学」とは学問研究のことです。そして「行学一如」とは、「自分をより優れた人間に成長させることと、学問研究に励むことは一つのことである」とします。
「行学一如」は、特に「行」の重要性を教えます。常にアクティブな姿勢で学問研究に取り組む「行」によって、学問研究は本物の「学」として、自分の血となり肉となるのです。高みに登り詰めた姿だけが尊いのではなく、目の前の一歩を大事に踏みしめて行く姿こそが大切であるとします。努力する今の姿が尊いのです。皆さんには、この建学の理念がしみ込んでいるはずです。皆さんには、これからもこの建学の理念である「行学一如」を実践し、アクティブな「学」を続けていって欲しいと思います。
また、禅の言葉に「随処に主となる」という言葉があります。「集団の中で自分はどうせ歯車だから、人の後からついて行けば良い」という考えはやめて、いかなる場でも集団の中に飲み込まれることなく、自分のできる仕事は何かを見出していく、見つけ出していく積極さが必要です。皆さんが主体性をもって、積極的に行動されることを望みます。

昨今、クールジャパンとして、禅や日本文化が世界から注目されています。そもそも、代表的な日本文化の多くは鎌倉?室町?戦国期に成立展開しました。枯山水の庭園?水墨画?能狂言?茶の湯などです。しかも、これらは禅の影響を強く受けて成立してきました。「おもてなし」?「和食」もそうです。「おもてなし」の心の根底には禅?仏教の慈悲、すなわち、「思いやり」や「いつくしみ」の精神があります。また、「和食」もシンプルで、清潔感あふれ、穏やかな真心のこもった料理というイメージがあり、禅の精神に連なるものがあります。
そして、「和食」には、3つの画期があるとされています。1つ目は曹洞宗開宗の祖で永平寺を開かれた道元禅師にあり、2つ目は将軍家をもてなした大内氏などの室町期の守護大名の饗応料理に、3つ目は千利休の懐石料理にあるとされています。
道元禅師には『典座教訓』という著作があります。典座とは寺院の料理長のことで、料理長の心得ともいうべき書物です。それまで日本では、料理人は低い地位に置かれていました。それを道元禅師は、六知事という高い位置に付け、料理を作り修行僧の命を支えることは立派な修行であるとされ、料理を作る以上は老心(親心、真心)をもって作るべきであり、食材を無駄にせず美味しく作るべきであるとされたのです。日常の生活を大切にされる道元禅師の心が表れています。この道元禅師の料理人?料理?食材に対する心が、?和食?の原点となっているのです。

このように、禅の精神が世界から注目されています。まさしく、禅の時代の到来ともいうべきでしょう。それは、禅の大学、駒澤大学の時代とも言えます。
さて、一方ではグローバル化が一層加速しています。その中で活動される方も少なくないでしょう。世界の人々とともに活動していく上で、語学力、コミュニケーション能力を身につけておくことは当然の事ですが、禅?仏教の文化や日本文化に対する素養を世界の文化?宗教との比較の上で、しっかりと持っていることも重要なことです。また、民族間対立の中で宗教?宗派対立が激化しています。そのような状況の中では、より一層、宗教や禅?仏教への知識は必要なものとなってきます。

このように、クールジャパン、グローバリゼーションの時代こそ、禅?仏教の大学、駒澤大学で学んだ皆さんは貴重な存在です。
最後に今一つ道元禅師の「愛語」という言葉を皆さんにお贈りしたいと思います。「愛語」というのは、まず慈愛の心を起こし相手の気持ちを察して優しい言葉をかけることです。面と向かって「愛語」を聞けば、喜びが顔に表れ心が楽しくなります。面と向かわないで、間接的に「愛語」を聞けば肝に銘じ、魂に銘ずるというのです。「あなたのことを誰々さんは、こんな風にほめていましたよ」ということが、本人に人を介して伝わった時に、それは本人の魂に響き、喜びが沸いてくるというのです。また「愛語には回天の力あり」と、「愛語」には物事すべてを好転させる力があると述べています。この、人に優しい言葉をかけるという「愛語」の活用も実践してみて下さい。物事万端がきっとうまくいくことでしょう。
これまで種々述べてまいりましたが。これらはみなさんにことあるごとに申し述べて来たものですが、皆さんの卒業に際し改めて申し述べさせていただきました。

皆さんは卒業後もアクティブな「学」?「行」という「行学一如」、また、常に主体となって行動せよという「随処に主となる」、「愛語には回天の力あり」の「愛語」を実践していって下さい。皆さんへ贈る言葉といたします。また、クールジャパンの原点の禅の大学、グローバル化社会で貢献できる専門力?生活力?総合力を身に付けた人づくりの禅の大学、駒澤大学で学んだことに自信を持って下さい。
さらに、皆さんは、吉祥寺ができて540年、学寮(旃檀林)ができて420年、近代的な大学となって130年、今の六本木ヒルズのところから駒沢の地に移転してきて100年という歴史?伝統と多くのエピソードに満ちた駒澤大学が母校であるということを胸にして、堂々
と生きていって欲しいと思います。実社会という荒海に乗り出す皆さんに幸多からんことを祈念いたしまして、ご卒業の式辞といたします。本日は誠におめでとうございました。

平成27年3月25日
駒澤大学長 廣瀬 良弘