平成28年度 学位記授与式(卒業式) 総長祝辞

Date:2017.03.28
駒澤大学総長
学位記授与式会場

本日ここに平成28年度駒澤大学学位記授与式にあたり、晴れて卒業される皆さん、ご卒業おめでとうございます。この日を心待ちにされ、長い間、陰に陽にご子女の学業成就を物心両面でご後援くださったご親族の皆々さまに対し、改めてご来賓の関係者各位と共に、教職員一同心からお祝い申し上げ、尽心の謝意を申し述べる次第です。

卒業生の皆さん、本学でのキャンパスライフはいかがでしたか。専攻学科の講義やゼミ?あるいは課外活動やサークル?部活動では、最新の学問技術を修得することができましたか。きっと皆さんは、本学で学び得た新しい知見や技術を社会に出て存分に活かしてみようと、そんな期待感でいまから胸を一杯にしているのではないでしょうか。

現今の世界情勢は混迷を深め、未来の展望が描けず心ある識者は危機感を募らせています。近年の米国や欧州に広がる偏狭なナショナリズムは、孤立?保護?排外主義を喧伝し、持続可能な地球環境の保全を目標に、営々と積み上げて来た人類の共生共存を目指す叡智は反古にされてしまいそうな気配です。信頼に足る時代の空気に乏しく、やり場のない人々の思いがうっ屈しています。

国内では、すでに6年の歳月が経過した東日本大震災の大津波と原発被害からの復興再生事業ははかばかしい進展がみられず、名古屋市の面積に匹敵するという広大な帰還困難区域に住んでいた24,000人の住民の生活再建は想像を超える困難を極めています。避難指示が解除になるまでの11年間のうちに生活環境は一変してしまい、故郷に戻れる住民は1割足らずであろうと推定されています。あまつさえ、7,848人を数える避難児童生徒は、転校先の学校で差別と偏見による陰湿ないじめを受けているということです。他人の苦しみや悲しみに思いが到らず、自分だけよければ他人などどうなっても構わないという考えばかりで、一体これから先、私たちの社会はどうなるのでしょうか。

幸い、卒業生の皆さんは、本学でブッダのダンマ、すなわち仏の智慧と慈悲の教えを学ばれました。ありとしてあるものは移ろい、変化してやまないという諸行無常のことわりです。人生は一瞬の出来事で、いのちは はかなく もろく いとおしいものであると気付かなければなりません。ものごとはなべて相応の原因や条件の下で生れ、やがて滅して行くので、その間の出会いは一期一会の一回きりのものとわきまえることです。なればこそ、自分のいのち同ようどんな小さないのちもスペアのないたった一つのいのちなのです。相手をいつくしみいたわり思い遣って親切に応接することです。

10年前、がんのため46歳で急逝した『十四歳からの哲学』の著者はこういいます。「君は自分を捨てて無私の人であるほど、君は個性的な人になる。これは美しい逆説だ」この言葉は真実語です。

我が道元禅師はこのブッダの智慧と慈悲の教えを敬慕し、ブッダの坐禅を日課とされました。姿勢を正し、呼吸を調え、心を平静に保ち、何事にも誠実に向き合う。自分を後回しにしても、先に他人のためにしてあげる。そういうふうに生きたいと願われ、そのように生きられたのでした。

本学で坐禅の教えを学ばれた皆さんは、ブッダの智慧と慈悲の真実を一生忘れないようにして、人生のどんな困難に出会っても、逃げることなく自身の問題として受けとめ、世の為、人の為に誉りを持って歩まれますよう心から念願するものです。全ては己の生き方一つにかかっている。そういっていいでしょう。

これから各界で雄飛される皆さんのたくましく美しい将来の姿に想いをはせつつ、一言、祝辞といたします。

平成29年3月23日、24日
学校法人駒澤大学 総長 池田 魯參