5月の歯痛

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Date:2015.05.10

年が明けたばかりと思っていたら、早いものでもう5月である。5月は毎年司法試験が実施される月であり、法科大学院にとっても大事な月であるが、私は毎年5月になるといつも約20年前の歯痛を思い出す。

当時、私はニューヨーク州の法曹資格試験に向けて勉強中であった。ご存知の方も多いと思うが、米国では法曹資格のための要件も試験科目も州によって異なっている。ニューヨーク州の法曹資格を得るためには受験資格を満たした上で、法曹倫理の試験(ロースクール在学中に受験できた)と、専門科目の試験に合格する必要がある。当時の試験科目は、各州共通の試験として、憲法、契約/売買法、刑法、刑事訴訟法、証拠法、不動産法、不法行為法、が課され、ニューヨーク州の試験科目として、代理、大量譲渡、商業手形、抵触法、会社法、家族法、衡平法、連邦司法管轄権、抵当権、ニューヨーク州実務、無過失保険法、パートナーシップ、個人動産法、担保付取引、税法、信託法、遺言法、労働災害補償法が課されていた(現在は若干異なるようである)。

米国の司法試験は日本と比較して簡単だと言われることが多い。しかし、厳しいロースクールの課程を修了した学生の中で約65%の合格率の試験は、ネイティブでない者にとっては(少なくとも私にとっては)決して容易なものではなく、また、いわゆる詰め込み式の受験勉強は久しぶりだったこともあり、今から思い出してもかなり勉強した。毎日、就寝食事入浴以外の時間は勉強していたが、試験日を目前としたある日、右奥歯が痛み始めた。このまま治まるようにとの祈りも虚しく翌日以降も段々と痛みが増して、とうとう歯痛を超えて頭痛となり全く集中できなくなった。仕方なく歯医者を受診したものの、手に負えないと口腔外科に回されてしまった。

口腔外科医は、360度の頭部レントゲンを撮る必要があると言い、それに従いレントゲン写真を撮った。その後その医師は結果をチェックしてくると言い残し、診察室を後にした。30秒ほど経った頃、奥の部屋から医師の大きな声が聞こえた。

Ooooooooooooh my God !!!!!!

診療椅子の上で真っ青になった...

今から考えると、医師の叫びは私の容体についてではなかったのかもしれない。そしてその後、原因であった親不知に関しどのような治療を受けたかについて、全く思い出すことができない。しかし、この瞬間のことだけは現在でも鮮明に蘇り、真っ青になって座っている当時の自分のことが、今となってはなんだか少し可笑しくも思えるのだ。

司法試験に限らず、大きな試験の前はストレスもたまり、また毎日根を詰めて勉強することによる身体の疲労も重なって体調不良となりがちである。当時の私は体調コントロールに失敗してしまったが、今年の司法試験では、受験する修了生のみなさんが最後まで体調を崩すことなく、全力をいかんなく発揮することができるよう心より祈っている。そしてこのように想いを馳せるたびに、いまだに右下顎がなんとなく疼くような気がするのである。(A)

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