障害者差別解消法

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Date:2016.03.24

平成28年4月1日から障害者差別解消法(正式法令名は、障害を理由とする差別の解消に関する法律)が施行される。同法では、国の行政機関や地方公共団体などによる、障害者に対する「不合理な差別」が禁止され(7条1項)、障害者に対して社会的障壁を除去するための「合理的な配慮」の提供が求められている(7条2項)。「合理的な配慮」の提供を求める条項は、平成18年12月に国連総会で採択された障害者権利条約に盛り込まれ、障害者差別解消法だけではなく、障害者基本法(4条2項)、障害者雇用促進法(36条の2、36条の3)などにも規定されるにいたっている。

かつて、障害は、個人の心身の損傷の問題であり、障害者自身が克服すべきものと考えられていた。また、行政機関等にとっては、障害者は福祉サービスの客体であった。しかし、近年、障害は、個人の心身の損傷の問題ではなく、心身に損傷のない人を前提として国家や社会が作り出している制度や慣行などによりもたらされるのであり、国家や社会により是正されるべきものと考えられるようになっている。また、障害者も、等しく権利の享有主体であることを前提とした法整備がされてきている。合理的な配慮に関する規定は、こうした考え方の変化を受けて定められるようになったものであり、合理的配慮の不提供も差別にあたるとされる。憲法14条の法の下の平等の解釈においても、機会の平等の形式的な保障にとどまらず、国家や社会がもたらしている障壁を除去するために、合理的配慮の提供による機会の平等の実質的な保障が求められている、と解することができる。

障害者差別解消法の施行により、同法の目的(1条)に謳われている、「全ての国民が、障害の有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会」の実現に向けた取り組みが、法制度として始まることになる。しかし、どのような行為が「合理的な配慮」にあたるのかは、障害者の性別?年齢?障害の状態?除去されるべき社会的障壁の内容などの具体的事情により異なり、「合理的」という語から一義的な結論が導き出せるわけではないため、実際には「合理的な配慮」の不提供にあたるか否かについて、判断が難しい場面もありそうだ。また、「合理的な配慮」の提供を求める条項には、障害者からの「意思の表明」があった場合であること、その実施に伴う負担が過重でないことも要件として定められている。意思の表明が困難な障害者の場合には合理的な配慮を提供しなくてもよいのか、過重な負担とはどの程度の負担のことを指すのかなど、これらの要件の適否の判断も難しそうである。「過重な負担」の要件が「合理的な配慮」の提供を抑制する方向に働くことも危惧される。

この法律の施行により、行政機関等における実際の対応では、共生社会の実現に向けたより積極的な取り組みがなされることになるだろう。その取り組みにおいて、この法律で求められている情報の収集など(16条)も積み重ねられるだろう。また、この法律では、国民の責務について、「障害を理由とする差別の解消の推進に寄与するよう努めなければならない」(4条)と定められている。国及び地方公共団体の啓発活動、障害者差別解消支援地域協議会などが有効に機能し、国民の間にも共生社会の実現に向けた意識が根づくことを期待したい。(U)

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